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名古屋地方裁判所 昭和45年(ワ)1719号 判決 1972年9月22日

原告

福住すえお

外三名

右訴訟代理人

高橋淳

石川智太郎

被告

名古屋市

右代表者

杉戸清

右訴訟代理人

鈴木匡

外四名

被告

右代表者

郡祐一

右指定代理人

服部勝彦

外三名

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1、被告らは各自各原告に対し各三万円およびこれに対する昭和四五年四月一日以降支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二、請求の趣旨に対する被告らの答弁(本案前の申立)

1  本件訴を却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案に対する申立)

主文同旨の判決。

第二、当事者の主張

(請求の原因)

一、左に記す五つの歩道橋(以下本件歩道橋という)は、いずれも被告らが設置、管理し、かつ費用を負担している。

1 名古屋市東区古出来町古出来交差点所在の古出来歩道橋

2 同市千種区松軒町四丁目所在の大和歩道橋

3 同市瑞穂区桜見町三丁目所在の桜見歩道橋

4 同市北区中切町四丁目一番地先の中切歩道橋

5 同市中区丸の内三丁目三番地先の呉服町歩道橋

二、1 被告らが本件歩道橋を設置した結果、当該道路を横断しようとする歩行者は、事実上本件歩道橋の利用を強制されるため、肉体的にも精神的にも多くの負担や苦痛を受けるものである。本件歩道橋は、階段の傾斜が急で階段の数も多く、そのため健康な成人の男子すらその昇降に息切れがし、疲れを感ずることもあり、まして老人や病人にとつては歩道橋の下に立つだけで渡る気を失ない、一度渡ると血圧が上り、脈搏が増える始末である。又歩道橋の橋の部分にはただ手すりがついているだけであるので、そこを通る者は雨風にさらされつらい思いをしなければならず、高所恐怖症の者にとつてそこを通るのに必死の思いにかられるのである。さらに歩道橋はそれを利用する者にとつて極めて時間的な不経済をもたらす。

2 そもそも道路は人間がそこを歩いたから出来たものであり、人間が歩くために出来たものである。また道路は住民の生活圏を形成するため作られたものであり、生活圏の形成は人間が歩くことから始まる。従つて人間はその生活圏を形成するため道路のどこを歩こうとも本来自由のはずである。

3 以上よりすれば本件歩道橋が設置されたため、歩行者が道路を平面的に横断する利益は侵害され、もつて本件歩道橋の設置された個所は瑕疵ある道路となつたものであり、仮りに右主張が認められないとしても本件歩道橋はその構造が老人、病人、身体障害者その他多くの者にその利用の際かなりの苦痛を与え、その利用を回避させるものであるから、本件歩道橋には瑕疵が存在するというべきである。

三、右道路または本件横断歩道橋の瑕疵によつて生じた原告らの損害

1 原告福住は、明治一四年生れの老女であるが、住所に近い古出来町交差点や都通りに本件古出来歩道橋と大和歩道橋が出来たため、歩道橋を昇り降りすると心臓が激しく鼓動を打ち苦痛を感じ、買物やその他外出が大変つらくなつてきた。又原告福住は、名古屋市立大学病院へ眼の治療に通つているが、右病院前にも本件桜見歩道橋が出来たため、眼の治療はしなければならないし、歩道橋を渡るのもつらいということで心痛が増すばかりである。この肉体的、精神的苦痛を金銭に換算するならば、少なくとも金三万円は下らない。

2 原告渡辺は、昭和二年生れの女性で教師をしている者であるが、毎日勤めの行き帰りには本件大和歩道橋を渡らなければならず、その都度つらい思いをしている。子供がまだ小さいので病気をすると歩道橋を渡つて医師のところへ行かねばならないが、そのときは子供をベビーカーに乗せて連れていけないため、やむなくおぶる等して連れていかなければならない。

このときは自分一人で渡つてもつらい思いをする歩道橋になお一層のつらさを感ずる。この苦痛を金銭に見積ると三万円は下らない。

3 原告若井は、昭和一八年生れの女性で病院に勤務する者であるが、左膝関節、左足首が悪く、左足に体重をかけるといまだに痛み、又左眼もほとんど視力を失なつてしまつた。ところが勤めの帰りに必ず本件中切歩道橋を渡らなくてはならないが、このときはいつも左足に痛みを感じ殊に降りるときには左眼が不自由なため遠近感がとりにくく、足を滑らせるのではないかと心配しながらそろそろと歩かざるをえない。このような肉体的精神的苦痛は少なくとも三万円に相当するものである。

4 原告山下は、銀行に勤務する者であるが、高所に昇ると非常に恐怖感を覚える。従つて名古屋市内にある多くの歩道橋にはほとんど登つたこともなく、どうしても歩道橋を渡るのでなければ道路の反対側に行けないような場合にはやむをえず渡るのであるが、この場合歩道橋の上に昇つただけで心臓がどきどきし、眼をつぶるようにし、手すりにつかまりながらそろそろ歩いて渡る始末で、とても眼をあけて自動車が通る下を見ることが出来ないのである。原告山下は通勤のためどうしても本件呉服町歩道橋を渡らなければならないのであるが、右のような苦痛を見積るならば三万円の損害である。

四、よつて原告らは、被告らに対し各自金三万円およびこれに対する履行期が到来していることが明らかな昭和四五年四月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告名古屋市の本案前の抗弁)

国または公共団体の設置する道路に対する国民の利用は、国または公共団体が道路を設置したことによりたまたま反射的に利用できるいわゆる「反射的利益」にすぎず、かかる反射的利益を前提とする本件訴は、形を変えて金銭請求の形をとつたとしても訴の利益はなく却下されるべきである。

(被告国の本案前の抗弁)

本件訴には訴の利益がなく却下されるべきである。

一、本件訴における被侵害利益は、従来道路面上を平面的に横断できた利益と考えられるが、右利益は法的救済の資格を有しない。なぜならば、公道利用の法律関係を検討するに、公道を一般通行者が自由に通行できるのは、公道管理者たる国または地方公団共体が公道として一般公衆の通行の用に供する行政措置をなしたことの反射的効果たるに止まるのであつて、ある構造形式の公道の供用廃止の行政措置があつても、一般通行者は管理者に対してその構造形式の公道使用の継続給付を請求できる固有の権利を取得するものではない。そして本件歩道橋の設置は、道路機能の高度化に伴い管理者が道路構造を平面構造から立体構造に変更したものである。してみると、一般通行者の中に、仮りに平面構造当時の構造形式に反射的利益を感受している者があつて、構造変更の結果右利益を受け得なくなつたとしても、本来法的に保護を求め得ない利益の喪失に止まるのである。

二、次に被侵害利益が住民の生活圏における行動の自由と言い換えてみても、要するに日常生活が不便になつたということであつて、仮りに不便を感ずる住民があつても、その不便さは公道利用の反射的利益の変更に基因するものであつて、前記第一項の理論がそのまま援用できる。

三  本件訴で主張されている損害は、国家賠償法第二条により救済を求め得ない損害である。即ち同条にいう損害は社会通念上法的救済に価する不利益でなければならない。その不利益とは通常人の感受性を基準として不利益を感受されるものであることを要し、被害者の特殊な事情や特殊な感受性は考慮さるべきではない。ところで本件訴によつて原告らの主張する損害を列挙すると、1原告福住は渡橋の際に非常に心臓が激しく鼓動を打つ、2原告渡辺は子供をおぶつて渡橋するとつらさを感ずる、3原告若井は左膝関節、左足首の疾患のため渡橋の際左足に痛みを感じ、左眼不自由のため降りる際足を滑らせないかと心配が起きる、4原告山下は高所恐怖症のため渡橋の際恐怖感を覚える、というのであつて、何れも同条が保護を予定しない微細な損害であるかないしは個人的な特殊の事情や特殊の感受性に基づく損害感情に止まる。

(被告らの本案前の抗弁に対する原告らの反論)

一、原告らは、道路面上を横断できた利益のみならず、身体の肉体的および精神的完全性を侵害された旨を主張する。

二、公道に対する国民の利用は、国または地方公共団体の行政措置による反射的利益であるとの被告らの主張について。

そもそも道路なるものは人類発生とともに生命や生活の維持必要から形成されてきたもので、国家が発生し国家組織が整備されて国または地方公共団体に道路設置の権限が与えられたのも国民が国または地方公共団体にその旨を委任したからに他ならず、更には憲法第二五条により国は福祉国家のサービス機関として、様々なサービスを国民に享受させる義務を負うが、道路の設置にしても同様であつて、より便利な、より安全な道路の設置も国の当然の義務として行うべきものであり、決して恩恵ではない。右のとおり道路の設置が国または地方公共団体の義務であるから、反面道路を利用することは国民の憲法上保障された権利である。また、元来道路は人の歩く道として発達したものであり、歩行者が道路を安全に通行する権利(歩行権)は人間の始源的なまた基本的な権利であり、人間の永年に亘る既得の権利である。

また、仮りに公道の利用が行政措置による「反射的利益」であるとしても、本件において訴の利益として問題にされるべきことは、保護すべき利益に対する違法な侵害があつたか否かということである。

よつて被告らの主張には理由がない。

(請求原因に対する被告らの認否)

一、被告名古屋市

1 請求原因第一項に対して

被告名古屋市が古出来歩道橋、大和歩道橋および桜見歩道橋を設置、管理し費用負担していることは認め、その余は否認する。

2 請求原因第二項に対して

本件歩道橋利用者が路面を歩行する者に比べ多少肉体的負担を負うことは認めるが、歩行者の生命、身体の安全を確保するため必要である。その余の事実は否認する。

3 請求原因第三項に対して

原告福住および同渡辺の生れた年、肩書住所に居住していること、同所近くの都通りに大和歩道橋が、古出来町交差点に古出来歩道橋が、名古屋市立大学付属病院前に桜見歩道橋ができたことは認め、その余は否認する。

二、被告国

1 請求原因第一項に対して

被告国が中切歩道橋および呉服町歩道橋を設置、管理し、費用負担していることは認め、その余は否認する。

2 請求原因第二項に対して

本件歩道橋が歩行者特に老人や病人にとつて、肉体的に多少の負担をかけることは認めるが、歩行者の交通事故を未然に防止し、その生命を守るために必要なものである。その余の事実は否認する。

3 請求原因第三項に対して

原告若井および同山下がそれぞれ主張の年に生れた女性であること、それぞれの肩書住所地に居住していること、それぞれ主張の本件歩道橋が出来たことは認め、その余は余は否認する。

第三  証拠関係<略>

理由

第一、被告らの本案前の抗弁について

まず被告らは公道利用は国または地方公共団体のなす行政措置による反射的利益であるから、従来の公道利用が妨げられたことを理由とする本件訴には訴の利益がない旨主張する。しかし、この点については国民の公道利用が行政庁のなす公道設置、管理等の行政措置による反射的利益であるか否かによつて訴の利益の有無に関する結論が左右されるものではないのであつて、仮りに国民の公道利用が行政措置の反射的利益であるとしても、国民はその社会生活維持のために公道を利用することは不可欠であるから、公道利用が法的に保護されうる国民の生活利益であることは当然である。もつとも原告らが主張する国民の歩行権なる概念は未だ法的に十分形成されたとはいい難く、また憲法第二五条によつて国(または地方公共団体)が国民に対し道路設置、管理の義務を負つており、従つてその反面国民は公道を利用する憲法上の権利を有するとはにわかに断定できないのであるが、そのことは国民が国または地方公共団体に対し具体的な道路設置等の請求をなしえないというにすぎず、国民の公道利用を事実上奪うに至る行政措置について行政処分の取消を訴求したり、こうむつた損害につき賠償を求めることをおよそ否定すべき理由は存しないのであつて、前記の如き国民の公道利用に対する法的保護の程度、態様は実定法に従つて判断すればよく、本件については原告らの主張する事実が国家賠償法第二条、第三条の法律要件を充足するものであるか否かを判断すれば足りるはずである。従つてこの点に関する被告らの主張には理由がない。

次に被告国は、原告らが本件訴で主張する損害は国家賠償法により救済を求めえない損害であるから訴の利益がない旨主張する。なるほど被告国が主張するように同法第二条に定める損害は社会通念上法的救済に価する不利益でなければならないが、しかし原告らが主張する損害は一般社会人が社会生活を営むうえでこうむつた損害であつて、同条が保護を予定しない微細な損害であるとか、個人的な特殊な事情や特殊の感受性にもとづく損害感情に止まるということはできず、本案の審理によりその当否を結論づけるべきものである。

第二、本案について

一、請求原因一の事実中被告名古屋市が本件古出来歩道橋、大和歩道橋および桜見歩道橋につき設置、管理しまたは費用負担する者であること、被告国が本件中切歩道橋および呉服町歩道橋につき設置、管理しまたは費用負担する者であることは原被告間に争いがない。

二、そこで被告らが本件歩道橋を設置したことによつて道路の当該箇所に瑕疵が生じたか否かを検討する。

原告らが本件道路には本件歩道橋の設置により瑕疵があるとする理由の要旨は、道路は人間が歩くために出来たものであり住民の生活圏を形成するために作られたものであるから人間は生活圏形成のため道路のどこを歩いても本来自由であるが、被告らが本件歩道橋を設置したため道路を横断しようとする者は事実上平面的に道路を横断することが出来なくなつた反面、利用しうる本件歩道橋は階段の傾斜が急で階段の数も多く、そのため老人や病人はもとより普通の男子ですらその昇降に息切れし疲れを感ずる等の肉体的精神的負担を与えたり時間的な無駄をこうむらせるものであるから、本件歩道橋の設置された箇所は瑕疵ある道路となつたというのである。

確かに道路は人が歩いたことから出来たものであり人が歩くためのものであり住民の生活圏を形成するためのものであると一応言うことは出来るが、しかしそれは道路の発生の由来がそうであるというにすぎないのであつて、文明の進歩とともに道路の機能も変化し、現在にあつては道路は高速度交通機関たる自動車の手段としても機能するに至つており、日本国の大部分の道路は歩行者と自動車運行者の共用とされているのが実状であつて、それら多数の道路利用者の安全かつ円滑な交通のために、国や地方公共団体はさまざまな通行区分や交通規制をするわけである。従つて現在にあつては人は道路のどこを歩くことも自由であるわけではなく道路交通法等の法規に従い一定の秩序を守りつゝ歩行しなければならない。もつとも右のようにいうことは国や地方公共団体が行う交通規制の一切に従わなければならないことを意味するものではなく、違法な規制には従う必要はないし場合によつては違法な規制によつて損害をこうむつたときには賠償を求めることができる。本件において被告らが本件歩道橋を設置し、検証の結果によつて認められるように本件歩道橋の設置された附近において従来平面的な横断歩道として通行を認められた部分にガードレールを設置して歩行者に事実上平面的な横断を出来なくさせるとともに歩道橋の利用を事実上強制することも右に述べた広い意味での交通規制の一方法ということができるのであつて、この方法は、歩道橋を設置し、車道と歩道との間にガードレールを設置することによつて、すなわち道路の構造に変更を加えもつて交通の安全と自動車等の円滑な通行を図ろうとするものであるが、被告ら自身認めているように横断歩道橋の利用には歩行者に多少の負担を与えるものであるから、右の如き構造の道路には歩行者の立場からみて瑕疵があるとの原告らの主張にも一応の理由は認められるわけである。しかしながら、右に述べたような歩行者からみた本件歩道橋を利用するうえでの不便さをもつて国家賠償法第二条第一項に定める道路の設置または管理上の瑕疵であると認めるにはなお幾多の点を検討しなければならない。右の点として1当該場所を通行する車両等の量と横断しようとする歩行者の量との関係およびいわゆる交通渋滞の程度、2歩道橋の構造上その利用によつて歩行者の受ける肉体的精神的な負担の程度、損失する時間の長さ、3当該場所から最も近い横断歩道までの距離、4横断歩道を廃止し歩道橋を設けたことによる交通事故の減少の程度、5歩行者が安全に道路を横断しうる他の施設(例えば地下横断歩道)の利用の可否、難易、6その他当該箇所の特殊事情、等の諸点を挙げることができる。そこで右諸点に関連がある本件証拠を検討してみるに、検証の結果によれば本件歩道橋の構造は別表(一)のとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。

ところで証人青山光子の証言およびこれによつて真正に成立したと認められる甲第二ないし第四号証によれば、60歳以上の健康で毎日仕事をしている男女各三名を無作為に抽出し、右の者に、長さ二〇メートルの横断歩道と長さ二三メートル、階段数三二の歩道橋とをそれぞれ渡らせる実験をなしたところ渡る前と渡つたあとの血圧と脈搏数、道路を横断するために要した時間、歩数は別表(二)のとおりであつたこと、横断し終えたあと、右六名は何らの自覚症状を訴えなかつたことが認められ、これに反する証拠はない。

また証人青山光子の証言およびこれによつて真正に成立したと認められる甲第三、四号証によれば同証人が千種区内に在住する主婦三七名と老人ホームに居住する男女三〇人とについて横断歩道と歩道橋の利用についてなしたアンケートの結果が別表(三)のとおりであることが認められ、これに反する証拠はない。

さて右に認定した事実によれば、本件歩道橋から最も近い横断歩道までの距離は最短が大和歩道橋で約六〇メートル、最長が古出来歩道橋で約一八〇メートルであるから、もし本件歩道橋を利用せず横断歩道を利用しようとする場合には歩行者にある程度の時間的な損失とそれにともなう精神的ないらだちを与えることが推認される。そこで本件横断歩道橋を利用する歩行者に与える肉体的な負担を判断するに、これを直接判断しうる証拠はなく、前掲証人青山の証言および甲第二号証によれば、本件歩道橋と構造、規模等がほぼ類似すると思われる歩道橋についてなした前記実験結果から間接的に推認すれば、六〇歳以上の健康人においては脈搏、血圧等についてある程度の負担を与えており、横断歩道を利用するときにくらべ肉体的な負担が明確に大きいことが推認されるが、自覚症状を訴えるほどのものとも認められない。もつとも右実験の被験者より老令の人や病弱の人にとつてはその肉体的負担はさらに大きく場合によつては疲労、めまい等の自覚症状を訴えることもありうることは経験則上推測しえないわけではなく、前掲甲第三、第四号証によればある程度推認されるところであるが、少くとも本件においては証拠上右に述べた以上に出るところは認められない。そして、本件歩道橋の利用に伴う肉体的精神的負担以外の点について原告らは何ら具体的な主張をせず、また前掲各証拠以外に本件歩道橋の設置によつて道路が瑕疵ある道路となるに至つたことを証明するに足りる証拠はない。

三、次に原告らが予備的に本件歩道橋自体に構造上瑕疵がある旨主張するのでこの点について判断するに、この場合原告らは瑕疵のない歩道橋としてどのような構造の歩道橋を主張するのであるかが不明であるばかりでなく仮りに利用者に肉体的精神的負担を与えない構造の歩道橋を瑕疵のない歩道橋であると理解してみても、二で検討したところよりして、本件で取調べた証拠をもつてしては本件歩道橋にはいまだ国家賠償法第二条第一項に定める瑕疵が存在するものとはいうことができない。

四、以上検討したところよりして原告の請求はその余の主張について判断するまでもなく理由がないことに帰し、失当として棄却を免れない。よつて民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(越川純吉 丸尾武良 杉本順市)

別表

(一)

註一

古出来歩道橋

大和歩道橋

桜見歩道橋

中切歩道橋

呉服町歩道橋

歩道から橋体の床までの高さ

註二

四・八

四・八

四・八

五・一

五・一二

橋体の長さ

(m)

約二八

二四・九〇

二八・二

二六・〇

四五・二

階段の内幅

(m)

一・五

一・五

一・五

一・五

階段の傾斜角度

二六・三四度

二六・三四度

二二・五度

二六・五度

二六・五度

各段の蹴上高

(cm)

一五

一五

一三

一三・五

一三・五

踏幅

(cm)

三〇

三〇

三三

三一

三一

階段の数

三六

三四

四〇

三四

三五

最も近い横断歩道までの距離

(m)

一八〇

六〇

九〇

一四七

一五〇

註一:古出来歩道橋は交差点にかかつているので橋体はほぼ菱形をしている。

右の数字は南東側のものであるが他の三つの階段の構造もほぼ同様である。

註二:橋体とは路上にかかつている橋の水平部分のことをいう。

別表

(二)

No.

性別

年令

横断前

横断後

前後の差

所要

時間

(秒)

歩数

脈搏数

血圧

mmHg

脈搏数

血圧

mmHg

脈搏数

血圧

mmHg

最高

最低

脈圧

最高

最低

脈圧

最高

最低

脈圧

横断

歩道

1

70

62

140

60

80

64

142

62

80

+2

+2

+2

0

33

17

2

62

86

190

88

102

86

194

80

114

0

+4

-8

+12

34

19

3

67

84

144

60

84

84

154

70

84

0

+10

+10

0

37

21

4

69

82

188

96

92

80

188

96

92

-2

0

0

0

41

19

5

76

78

166

76

90

78

168

70

98

0

+2

-6

+8

35

19

6

60

80

150

80

70

82

156

84

72

+2

+6

+4

+2

39

17

横断

歩道橋

1

70

64

134

82

52

78

150

86

64

+14

+16

+4

+12

120

60

2

62

88

192

82

110

94

218

94

124

+6

+26

+12

+14

125

61

3

67

84

144

64

80

92

154

82

72

+8

+8

+18

-8

119

67

4

69

80

176

102

74

90

202

118

84

+10

+10

+16

+10

126

60

5

76

70

182

70

112

104

196

98

98

+34

+34

+28

-14

125

68

6

60

70

154

86

68

92

180

80

100

+22

+22

-6

+32

121

55

別表(三)―1

主婦三七名について

一、横断歩道と歩道橋とどちらを通るか

1 横断歩道

一七名

2 歩道橋

一七名

3 不明

三名

二、歩道橋のある場合必ず渡りますか

1 必ず渡る

二五名

2 交通量の少ないとき下を通る

一二名

三、1 歩道橋は渡りやすいか

(一) 渡りやすい

五名

(二) 渡りにくい

三一名

(三) 不明

一名

2 渡りやすい理由

(一) 安心感をもつ

(二名)

(二) 安全だから

(二名)

3 渡りにくい理由

(一) 階段の傾斜が急である

(一〇名)

(二) 幅が狭すぎる

(七名)

(三) 急ぐとき時間がかかる

(五名)

(四) おつくうに感ずる。

(五) 疲れる。

(六) 階段の昇り降りに不安を感ずる。

(七) 滑つて歩きにくい

(三名)

(八) 揺れるから気持悪い

(二名)

(九) 歩くときひびく金属性の音が無気味である

(一〇) 天候により危険性がある

(十一) 年少の子供は足を踏みはずしやすい

(十二) 乳母車や老人が渡れない

(二名)

別表(三)―2

一 横断歩道と歩道橋とどちらを通るか

1 横断歩道

三〇名

2 歩道

二、歩道橋は渡りやすいか

1 渡るのがおつくう

三〇名

2 渡りやすい

三、歩道橋を渡るのがおつくうな理由

1 足が悪いからつらい

2 降りるのが危ない

3 階段が急

4 渡るとき揺れるから気持が悪い

5 渡るとき下を見ると不安な感じがする

(とくに女子)

6 急ぐと動悸がする

7 体が思うようにならない

四 歩道橋に対する要望

1 エスカレーターにしてほしい

2 階段をもつとゆるくしてほしい

3 手すりが真中にあるとよい

4 歩道橋の両側に柵をつけて

風が吹かないようにしてほしい

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